『スペシャル』|50円にも満たない、わが家のごちそう

※この記事では、家族との日常の中で感じた成長や想いを綴っています。

仕事帰りの娘から連絡があった。

ごまに会いに行きたいなー。

K君、仕事なの?

ううん、お盆だから実家に帰ってるんだー、真面目だからさ、みんなでお墓参りに行ってずぶ濡れだってさ。

ええ!前から思ってたけど、そういう行事、ちゃんとしてる家だよね。嫁になったら大変だね、行かなくちゃいけないね。

もはや、「嫁」の仕事から解放されて自由の身となった私は、大変だなぁ、という完全に他人事のような感覚である。

そして、彼は、車で数十分のところにある実家にも、呼ばれるとちゃんと律儀に帰る息子なんだなぁ、と思った。彼は、お盆やお正月には必ず帰省する。

果たして、うちの息子は帰ってくるだろうか。

そんな想像をしている私に、娘は、「えー、行かないよ。」こともなげに言う。

そういうわけには行かないのよー、「嫁」っていう役割を持ったらね。

やだよ。ちょうど販売促進週間だから、行けませーんって言おうかな。

ははは。

笑いながら、最初はそうは行かないんだよなー、とか思ったけど、なにも娘たちの世代は同じ体験をする必要はないのではないか、と思い直した。

嫌なことはしなくていいし、自立して働いている「嫁」が大半なんだから、昔の「家制度」に縛られた役割を演じなくても良いではないか。と

家に帰ると、ごま助が予想外の娘の来訪に歓喜のダンス?なのか、ゴロン、ゴロン、とお腹を見せたり、頭突きしたりとしばらく歓迎が続いた。

「うーん!かわいい!猫カフェに何軒か行ってきたけど、やっぱりごまが一番ですねー、あーかわいい。」

文字通り、猫撫で声で猫を撫でている。

私は猫カフェに行ったことはないけれど、娘によると、どこも同じわけではないらしい。

ツーンとした血統書付きの猫たちのカフェは、塩対応で、抱っこは禁止。…何のために行くのだ?見るだけ?

保護猫のカフェでは、自分から膝の上に乗ってサービスしてくれる子もいたとか。その時のご機嫌に左右される猫という孤高の動物は、もはやそこがいちばんの魅力でもあるのだが。

嫌いな抱っこをされて、両足でグイーッと娘の胸を押し返しているごま助。それでも怒らないで、飽きるまで付き合ってくれる懐の深さがある。

いい子でちねー!と言われているけど、本当は人間で言うと30代の男なんだそうで。

オトナの余裕ってやつですかね…

「はいはい、ご飯できたよ。ネットで見た、火を使わない油淋鶏ユーリンチーね。

あと、納豆もあるよ。」

「あ!ママ、卵ある?」

その言葉で、一気に10年前に遡った。

「あ!スペシャル?」

「そうそう!😄」

我が家では、納豆に卵を入れて食べることを「スペシャル」と呼ぶ。

離婚して3人で古い県営住宅で暮らしていた。私は看護学生、子どもたちはそれぞれ、中学生と小学生だった。

ある日、テレビで卵の白身を取り出してフワフワにあわだてて、それをご飯に乗せ、その上に黄身を乗せるという、スペシャル卵かけご飯、というのを3人で見た。

「おお!やってみたいね、おいしそうだね。」

とチャッチャカチャカチャカ!とかき混ぜて作ってみたけど、途中で

めんどくさいな。

ということになり、そこにあった納豆に少しふんわりした卵を入れた。

納豆の糸が卵と合わさってトロッとして、少し黄色味を帯びた納豆を熱々のご飯にのせる。

おいしい…☺️

こんな誕生秘話と、当時のビンボー生活の中で、ご飯を納豆で一杯、卵で一杯食べられるのに、ふたつを同時に混ぜて食べてしまうという贅沢感やら、いつもの納豆がふんわり、とろりとした食感になるスペシャル感が折り重なって、いつの間にか、我が家では「スペシャル」という名前がついたのだった。

「この前、家でさ、『そうだ!スペシャル食べよーっと!』って言ったら、K君が、え?スペシャルってなに?って言ったんだよ。」

「えー?笑 それ、言っちゃったの。」

ビンボー!!

2人揃って同じことを言って、笑い合った。

まさか、総額50円にも満たない納豆ご飯が、「スペシャル」だとは。

あの頃は、経済的に今よりずっと苦しかった。だけど、毎日のささやかな幸せがたくさんあったな、と思う。

大袋入りのお菓子をそのままにしておくと、1日で全部食べてしまうから、まとめ買いしてきて、それを1週間で分ける。

そして、キャラメル、クッキー、お煎餅だの、数種類が入った1日分のお菓子セットを、それぞれの専用おやつ箱に入れておく。

1日にいろんな種類のお菓子を少しずつ食べられるから、いいでしょうー

なんて言っていた。手が空いている時は、そこに手作りのお菓子も加わった。

限られたものの中で、工夫して楽しく生活していて、限られているからこそ、「スペシャル」に感じる瞬間がたくさんあったように思う。

その一つが、まだ娘の心に残っていた。そして今度は、彼氏をびっくりさせたとは。

なんだか、それがおかしくて。

ちょっとだけ、温かい気持ちになった。

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