私たちは何を見ているのか|映画『怪物』を観て

※この記事では、日常の中でふと感じたことや人生についての想いをエッセイとして書いています。

看護学校時代の友人リョウ君と、明日は我が家で「勉強会」の予定。

この「勉強会」っていうのは、看護学校時代からの名残の習慣でもある。

何か、わからないことや、詳しく知りたいことがあると、集まって議論をしたり、一緒に考えたりする。

1人で考えるよりも、整理できたり、新しい視点が生まれて目から鱗、というのが楽しくもある。

今回は、精神科の薬についてがメインテーマであるが、面白い映画があるから、観て!と勧められて、「怪物」を観た。

この感想を、明日語り合う予定になっている。

※一部、作品内容に触れています。

安藤サクラさん演じるシングルマザーと小学5年生の少年は、とある小さな街に住んでいる。安藤さんの、その声かけや、息子のちょっとした表情の変化にも気がつく様子を見ていると、忙しいながらも常に子どもに目をかけているいいお母さんだな、という印象を受ける。

しばらくは、母親目線での物語が展開していく。

息子の様子がおかしい。ケガをして帰ってきたり、車から飛び降りたり、水筒に砂が入っていたり。

そして、「豚の脳が入ってるって言われた。」という告白。

「誰に!誰にそんなことを言われたの!!」

ここまできたら、我が子は誰かにいじめられていると思うのが自然だろう。私も、ひどい!と思ったし、どんどん憤りが大きくなっていった。

私の憤りと同時進行で、母親は学校へ乗り込む。

私だったら、なんて切り出すだろうか。などと考えながら。

もちろん、学校の先生は真摯に聞いてくれるだろうと思っていた。

しかし・・・。

校長は、無表情で話を聞き、席を立とうとする。暴力を振るい、暴言を吐いたとされる教師は、反省している態度ではなく、周りの教師はいかにも「とにかく謝っておけばいい」ような態度で、全員が立ち上がって、頭を下げる。

許せない!と思った。

「違う、違うんですよ!!」安藤さんが叫んだ。

私と安藤さん演じる母親は、全く重なっていた。

謝ってほしいわけじゃない。

場面は切り替わり、息子の視点、教師の視点などさまざまな角度からの物語が、今まで見たシーンを絡めて改めて再生されてゆく。

母親として見ていた風景が、全く違ったものに見える。

え?どういうこと?なんで?

私は混乱していくのがわかった。今まで見てきたもの、感じてきたものに疑問を持たざるを得ない。

何が、本当なの?真実は、どこ?

何が起こっているの・・・。

無邪気な少年たちの楽しそうなシーン、悪者だと思っていた教師の普通の日常、あらゆる疑問点・・・。

ぐるぐると揺さぶられて、軸がわからなくなるような感覚に襲われた。

教師が「僕は、本当にやってません!!」と叫ぶシーンがある。

静かに、「でしょうね。」と校長は言った後、不気味に「そんなこと、どうでもいいんだよ。あなたが、学校を守るんだよ。」と振り返る。

冷や水を頭からかけられたような戦慄を覚えた。

実際にあったことなど、問題ではない。すでにストーリーは出来上がっていて、それが一人歩きしているのだ、誰にも止められない・・・。

精神科看護をしていて、同じようなことを感じることがある。

患者さん、医療者、家族、それぞれの立場から同じものを見ているつもりでも、主観が入れば全く違うものになることがある。

「思い込み」のフィルターが目を曇らせることもある。

私たちは、常に柔軟な考え方と、多方向から物事を見る目を持つことを求められる。

都合のいい「真実」に辿り着かないように気をつけなければならない。

最後は、正解や答えが置かれたわけではなく、解釈に任せる形となっている。

最初はすっきりしない終わりかただ、と思った。

しかし、これを見て何を感じ、何を思うか、という「芸術作品」の余白を感じた。

どんなふうにもとれる。物事は多面体である。

むしろ、一方向から見るだけで、物事の本質がわかるだろうか?と問いかけられている気がした。

そして、「真実」とは、何か?

私には、この問いが重く残るメッセージだった。

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人を理解することの難しさについて考えさせられた映画でした。
精神科看護の中で感じた「待つこと」の意味については、こちらの記事でも綴っています。

導くことは、待つことなのかもしれない|精神科ナースが考える看護

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