※この記事では、家族との日常の中で感じた成長や想いを綴っています。
父には、どうしてそんなふうでいられるんだろう、と思うようなエピソードがいくつかある。
子供の頃。
「まったく人がいいんだからー、そんなんだから、お父さんは騙されちゃうのよねー」
と母が何かをきっかけにして話し出した。
母が辛口トークを始める時は決まって、父は黙っている。
いいんだよ。
と顔に書いてある。
父は長らく量販店で家電の販売をしていた。
店頭に立っていると、昔の同僚がふと現れたという。
お久しぶりです!
笑顔で話しかけてきたので、一緒に食事に行った。
「そこでねー、その人、屋台を買って商売を始めるって言ったんだって。だから、少しお金を貸してもらえないかって。」
当時のお金で三万円をその場で父は貸したという。
三万円?結構、大きなお金。
「そーでしょう、そんなの、嘘かもしれないじゃないの。その後、お父さんは人がいいから、商売始めるって言ってた場所にしばらくしてから見に行ったらいなかったんだって!」
ほーらね。という顔で母は、なぜか誇った顔をしているのだった。
この場合、母は思ったことを喋っているだけなので、いいのだが、父のその時の気持ちを考えると、えー、そうだったんだー、なんて軽い受け答えはできなかった。
父の顔を見ると、
この話は母が何度もしているらしく、もう、いいのに、といった調子で
「いや、どうしているかな、と思って見に行っただけだよ。たまたま、休みだったかもしれないし。」
「ほーら、お父さんは、こんなこと言うのよー」
お母さん、やめてあげてよ。と心の中で思った。
母の素直さはこういう時、困ってしまう。
それっきり、その人はお金を返しに来なかった。
その後、衝撃的なことを父が言った。
「お金を貸す時はね、あげるつもりでいないとね。」
そんなことができるだろうか?
五百円だって、返してほしい、と思ってしまう。
その人は、周りの人にお金を借りてしまって、とうとうしばらく会ってなかった自分のところにやってきたのかもしれない。
と父は思ったのだという。
だから、本当かどうかなんて、いいんだよ。
私は黙っていた。
母は、やっぱり嘘だったんだ、偶然を装ってたんだ、とか、私だったら無理、とか人間らしいことを言っていた。
私も母側の人間だけど、父の気持ちを考えたら、なにも言えなかった。
嘘かもしれない、ということよりも、どうしてこの人が自分を頼ってきたのか、という心を見ていたんだ…
心を打たれた。
「お父さんは、すごいね… 私には、できないな。」
母は、私の言葉を少々違うように解釈したのか、
「そうよねぇ!お父さんしかできないわよねー!私なら、絶対に返してって言いに行く!
一万円でも、諦めない!」
と勢いよく言った。
そして、「だから、お父さんのことが好きなんだ」という言葉が後ろにあるのを私は知っている。
先日、息子から
お母さん、申し訳ないんだけど、支払いが立て込んで、今月苦しいから、前借りできない?
とLINEが入っていた。
あら、どうしたんだろうという気持ちと、お母さんはATMじゃないぞ、という気持ちになった。
どのくらい必要なのか、理由を説明してもらってから、振り込んだ。
研究室のお金やら、教授の還暦祝いだそうで。
熱中症だった、というので、水筒とアクエリアスまで寮に送った話をしたら、
「まぁーた、だまされてるんじゃないのー?甘いんだから…」
と母がからかい半分に言った。
ふと、父の言葉が脳裏に浮かんだ。
「そんな子じゃないよー、それに、騙されたっていいんだよ。元気ならそれでね。」
そんな言葉が口から出た。
そう、元気ならそれで十分。どんな理由でも、困っていることには変わりない。
それはそうね、笑顔で今頃はどうしているのやら、と話をしながら、夕飯を囲んだのでした。
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