出勤するときに、ハシゴを積んだ車を見た。
ああ、懐かしいなぁ……。
ふと、幼い日の息子のことを思い出した。
まだヨチヨチ歩きの頃。
私たちは団地の二階に住んでいた。
よく晴れた日、娘を幼稚園に送り出して、玄関先でも掃除しようと思い立った。
玄関を掃いて、ドアを開けて外も掃除しようと出たそのとき。
背後で「カチャリ」と音がした。
え?
まさか、と思ってドアに手をかけると——開かない。
ちょっとだけだから、とスマホも財布も持っていない。
室内には息子だけ。
「あーあの、りゅうちゃん……?」
玄関ポストから覗くと、息子が立っていて泣いている。
鍵の操作を覚えているわけではない。
たまたまこの日に手が届いて、回してしまっただけ。
自分でも何が起こったのかわからない様子だった。
「あのね。大丈夫。そのツマミ、もう一度回してほしいんだけど……」
そう言いながら、無理だな、と思っていた。
こうやって、成長の瞬間は突然やってくる。
——しまった。
おかあさんが消えて、息子は泣き続けている。
2階だから、どこからも入れない。
さて、どうしよう。
と頭を抱えていると、ハシゴを載せた作業車が入ってくるのが見えた。
——あれだ!
ダッシュで駆け寄って叫んだ。
「すみません!!そのハシゴ、貸してもらえませんか!!」
突然のことにお兄さんはポカンとして、
「どうしたんですか?」
「あの、一歳の息子が玄関の鍵を閉めてしまって、開けられなくて泣いてるんです」
そう伝えると、その方はすぐに動いてくれて、ベランダ側にハシゴをかけて室内に入ってくれた。
おかあさんがいない。
そこへ突然、知らない人が窓から入ってくる。
息子はさらにパニックになったのか、ぎゃぁぁ!! 悲鳴のような泣き声をあげた。
——そりゃ、そうだよね。
玄関が開いて、笑顔のお兄さんと、泣き顔の息子。
まさに救世主だった。
「本当にありがとうございました」
お礼を言うと、その方は「いえいえ」と去ろうとした。
何もなくて申し訳なくて、母からもらった少し高級なリンゴジュースを差し出した。
「せめてこれを……」
「え?ありがとうございます」
そう言って笑顔で受け取ってくれた。
あの時のことが、昨日のことのように蘇って、思わず一人でクスッと笑った。
子育てって、本当にいろんなことがある。
友人は、真冬のベランダで洗濯物を干しているとき、同じように一歳の娘に鍵をかけられてしまったことがある。
何度声をかけても、娘は絵本に夢中で振り向かない。
上着もなく寒さの中、隣に助けを求め、ベランダを伝って避難したそうだ。
あとで開錠にも費用がかかり、散々だったと話していた。
大きな事故につながらなくて、本当に良かった。
子どもの成長の瞬間には、ちょっとした「隙」にも注意が必要ですね。
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