※この記事では、看護の現場で出会った人や言葉を、窓辺で思い出すように綴ります。【癒しの窓辺シリーズ】
まさえさん(仮名)の退院がようやく決まった時のことをふと思い出しました。
以前の病棟からのお付き合いで、長い入院生活が続いていました。
引きこもりの生活が続いていて、癇癪を起こすととんでもないことになってしまうという困り事もあったようですが、ご家族に大切にされてきた人らしく、なんとなく憎めない患者さんでした。
困った部分はあって、社会の中で生きていくには難しさもある人ですが、素直で優しい側面があることを私も職員も知っています。
少女のようなかわいらしさも持ち合わせていて、小物を作っては職員にプレゼントして、私が名札につけると
「あら!さっそくつけてくれたの!ありがとう!!」
と嬉しそうに笑顔で言ってくれます。
そうかといって、ブチギレると、感情のコントロールが難しい人で、私の腕をギリギリと絞り上げて怒り出したこともあります。
けっこう、痛くてびっくりしましたけど、その後になって、
「さっきはごめんなさいね」
と謝ってくれるところがなんとも…
「水をぶっかけてやるから!!!」
と叫んでカウンターから消えたかと思ったら、本当に水を持ってきてかけちゃったことも。
看護記録的には「ひどい不穏で、行動化した」ということではありますが、なんか、おかしみが湧いてくるというか、いつものまさえさんを知っているから、腹を立てる前に笑ってしまう。
病院では、ちゃんづけをしてはいけないのですが、つい、「まさえちゃん」と呼んでしまうことがあります。
「ねぇ、まさえちゃん。どうしたの、何があったの。」
「だって!!だって!洗濯したいんだもの!この人が!!!」
泣きながら怒って、蹴ったり、叩いたり。
担当ナースは、いつも頭を抱えていましたが、いけないことは叱り、良かったことはフィードバックして、少しずつ行動範囲を広げていきました。忍耐のいる看護だったと思います。
そんな入院生活の中で、担当ナースとの信頼関係は深まり、「まさえちゃんの頓服」とまで言われるようになったのです。
最初は、家に帰りたい!と何度も言っていて、家族との面会も控えていた時期がありました。
退院する頃には、不安を口にするけれど新しい生活へ向けて退院が決まって、落ち着いて生活できるようになっていきました。
「ほら、あのとき、水ぶっかけちゃってさ」
と、本人も笑って振り返る。
「あれはまずかったねぇ。びっくりしちゃったよ」
なんて私も返す。
それまでの長い経過を見ていると、退院が決まったことが本当に感慨深い。
夜勤をしていると、まさえさんがカウンターに来て
「今までありがとう、今日で最後だもんね。」
と言いました。
「え?あ、そうか、私、退院の日は休みだものね。」
「うん、大丈夫かな。」
「大丈夫よ、まさえさんならきっと、うまくやっていけるよ。ね、困ったことがあったら、職員さんによく相談してね。」
「うん!」
本当に笑顔がかわいいのよねぇ、あの年齢で、ずるいというか…
配膳車が来たので、廊下に出た瞬間に、
「ありがとう!!本当にありがとう!!!」
ガバッと不意に抱きしめられました。
私は、まさえさんに特別なことをした覚えはなかったし、患者さんとの距離感を保つために、普段はハグはしないように努めているので、びっくりしました。
だけど。こうやって、全身で喜びと感謝を伝えてくれるまさえさんが、私は人としてとても好きだな、と思いました。
そして、毎朝、私が出勤してくるといつもカウンターに立っていて、
「おはよう!今日もよろしくね!」
って笑顔で話しかけてくる、まさえさんを思い出しました。
毎朝、気分がいいわけじゃありません。疲れたな、っていう日も、また頑張らなくっちゃ、って体を引きずってくる朝もあるから、よろしくね!って言われると、
よろしくじゃないよ。
って素直に受け取れない日もあった。
でも、笑顔で「おはよう、まさえさん」って返していたのが、彼女にとってはもしかしたら「特別」だったのかもしれません。
少し、肩を抱いて、
「ありがとう、少し淋しくなるよ。大丈夫、まさえさんなら、絶対にうまくいくよ。今度は外来で会いましょうね。」
と声をかけました。
こんな瞬間があるから、この仕事はやめられないんだなぁ。としみじみ思いながら、これからのまさえさんの人生を思いました。
そんなにすんなりと行かないかもしれない。環境の変化に弱い人だし、今までそばにいた職員もいない。もしかしたら、また病棟で会うかもしれない。
でも、そんなでこぼこがあっても、失敗を繰り返すことがあっても、希望を持って退院していってほしい。
夜勤明け、まさえさんはまた、いつものように私を見送ってくれました。
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🌱癒しの窓辺シリーズ
忙しい日々の中で、ふと立ち止まる窓辺の時間。病院で出会った人たち、看護の現場で感じたこと、心に残った言葉。
そんな出来事を、窓辺で静かに思い出すように綴っています。


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