食育の優しい思い出|「いただきます」に込めた、小さな命へのまなざし

※この記事では、日常の中でふと感じたことや人生についての想いをエッセイとして書いています。

子どもの頃、父は近くの川で釣りをするのが趣味だった。

父は平日休みの人だったから、いつ釣りに行っていたのかはよくわからない。

学校から帰ってくると、珍しく父が台所に立っていて、小魚がスイスイと洗い桶の中を泳いでいた。

「わぁ、お父さん、釣ってきたの。」

「うん。」

「わぁ、かわいいね、泳いでるよ。これ、どうするの。」

「ん?食べようかと思って。」

「え!」

今、生きてるのに。今生きてる魚を食べようとしている…

いつも魚や肉を食べているのに、こうやって、目の前にある命をいただく、ということが現実となって迫ってきて、受け入れることができなかった。

「え、だって、お父さん、生きてるよ、ほら、さっきより元気になってきてるよ。」

「んん?…そうだねぇ…」

包丁を研いでいた父は手を止めて、魚と私を見比べた。

「かわいそうだよ!食べられない。」

その日の夕方、魚が食卓に上ることはなかった。父が、そっと川へ返しに行っていたことを母から聞いた。

お父さんがせっかく釣ってきた魚だったのに、私は食べられないって言っちゃったから。がっかりしたかな。でも、かわいそうだったもん。

複雑な思いが胸に広がったのを思い出す。

 

時は過ぎ、私は2人の子どもを持つお母さんとなった。

あさりを買ってきて、砂抜きのために新聞紙をかけておく。

幼稚園から帰ってきた息子が、新聞紙を取ると、にょーん、と水管が伸びていて、すっかりリラックスモードになった、あさりたち。

「わぁ!!すごいね!伸びてる、伸びてる!生きてる!!」

息子は興奮している。

「お母さん、これ、飼えないかな!!」

そら来た。

私は昔の記憶がふと蘇るのを感じながら、

そうだねぇ、だけど、あさりを飼う方法、わからないなぁ…

と言った。

息子が泣くのではないか、とさえ思ったけど、

「あ、そうか!そうだね。」

意外とあっさりとしていた。息子がどんなふうに捉えたのか、わからなかったけれど。

ある日、息子が幼稚園でカナヘビを捕まえて帰ってきて、飼うんだ。と言ったことがあった。

「りゅうちゃん。カナヘビはね、生き餌を食べているんだよ。」

「“いきえ“ってなあに?」

「生きているものだよ、虫とかね。飼うんだったら、君が毎日、生きてる餌を捕まえてあげなくちゃいけないんだよ。できる?」

…。

「幼稚園に行かなくちゃいけないし、毎日はむずかしいと思うんだ。

だからね。」

息子の俯いた顔を見ながら言った。

「うちのお庭で飼うのはどうかな?それなら、自分で餌を探して生きられると思うの。」

俯いていた息子が、ぱっと輝いた目を上げた。

「そうだね!!僕、そうする!!!」

それから、うちではダンゴムシとか、バッタとか、蟻とか、あらゆるものを庭で「飼う」ことになった。

このエピソードが、もしかしたら、「そうだね!」に反映されたのかもしれない。

その日の夕飯には、あさりのお味噌汁を出した。娘の大好物。

子どもたちは、ニコニコとご飯を食べている。

生きていた時に伸びていた水管や体はギュっと小さくなっていて、閉じていた貝がらは、パカ!っと開いていて、私には、熱さに降参!したように見える。

まさに、私は今、命をいただいているのだ、と実感する。

 

また、こんなこともある。

私は時々、趣味でパンを焼く。

パンの製法にはいろいろあるが、一般的にはイースト菌を小麦粉と一緒に練って生地を作り、温かいところに置いて、イーストが発酵するのを待つ。

イーストは砂糖を栄養にして成長し、ガスを発生させることで生地を膨らますことができる。

膨らんだ生地を成形して焼成する、というのが工程である。

温かい環境を提供して、イースト菌が発酵するのを待ち、焼いてしまうなんて、残酷じゃないか?

と思ってしまう、と同僚に言ったら、そんなこと、思いつきもしなかった。と少し驚いて笑っていた。

こんなことを考えてしまうのは、どうやら私だけのようだ。

意識する、しないに関わらず、私たち生き物は、他者から命をもらって今日を生きている、ということは明らかな事実なのだ。

「いただきます」という時、私は少しだけ、そのことを考えている。

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私のブログでは、子育て卒業後の”自分らしい毎日”をテーマに、看護・家族・猫・ポタリングなど、日々の小さな挑戦と気づきを綴っています。

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