独語が止まらない、愛すべき大先輩ナースのこと

※この記事では、看護の現場で出会った人や言葉を、窓辺で思い出すように綴ります。【癒しの窓辺シリーズ】

独語というもの

年齢を重ねると、思っていることを口に出していることが多いと感じている。

よく、スーパーで

「えっと、トマトはあるでしょう?次は何を買おうかな。」

とか、独り言を言いながら歩いている人を見かける。

若い時はわからなかったけど、最近は、あーやって言葉にして自分の考えを整理しているんだよね、って思う。

仕事をしていると、顕著にそれが現れることがある。だいたい、テンパってる時。

「あー!ちょっと待って。一回考えよう。まず、これをやって・・・。」

ぶつぶつ言ってると、くる!っと振り返られることがある。

「あ、独語ですよ、大丈夫」

ちなみに、「独語」とは、精神科では幻聴にお返事したり、会話したりしている時に「独語著明」と記録する。

なので、「ひとりごと」と言わずにあえて「独語しちゃう」などと言うことがある。

坂本さんという人

さて、私の大先輩ナース、坂本さん(仮名)の話をしよう。

坂本さんは、65歳以上のシニアナースである。若い時は内科のナースとして働いていたから、内科の知識もたくさん持っているし、なにしろ仕事が丁寧なのが、私は好きである。

丁寧だからこそ、細かいと言われてしまうこともあるし、小言が多いと嫌がる人もいる。

介助が必要な患者さんが多い病棟。とにかくおむつ替えを終わらせて次の仕事に取りかからないと、という目の回る忙しさ。

その中でも、坂本さんは背中に敷いたバスタオルを「昨日と同じやつじゃない、汗吸ってるわよ!」と新しいものに取り替えたり、シャツをきちんと伸ばして快適に過ごせるように配慮したりする。

坂本さんに言わせれば「当たり前のケア」なんだけど、この病棟ではスタンダードとは言えない。

みんなが普段気がつかない、患者さんのお部屋の整理整頓をやっているのはほぼ、坂本さん。

「全くもう、私がいつも綺麗にしているのに、どうして次に来る時はこんなふうになっているのかしら!」

ぷんぷんしている。

それもそのはず、自分ではいじらないお年寄りの床頭台が、毎回散らかっているのである。ティッシュ、櫛、おしり拭き、カーディガンなどが乱雑に置かれている。

たぶん、この方をケアしてそのままポイっと置くのだろう。

当たり前の看護

坂本さんを見ていると、前の病院の先輩を思い出す。

「自分の家族をお見舞いに行って、汚いところに寝かされていて、頭もモジャモジャだったらどんな気持ちがする?」

その人は、いつも患者さんが離床した後のベッドのゴミを丁寧に取ったり、リネンを整えたりしていた。

患者さんの髪の毛を丁寧に漉いたり、髭を剃ってあげたり。

高度な医療技術うんぬんの前に、患者さんの療養環境を整えること、それが基本の看護じゃないか、と原点に気づかされるのだった。

ちょっとだけ、静かにしてほしい時もある

とにかくこの坂本さん、いい人ではあるのだが、困ったことがある。

「独語」が激しいこと。

考えをまとめようとしているとき、坂本さんがやってきて

「これどうなってるのよ?え?なんでやってないの。いつまでにやるの、あぁ、どうしよう、忙しくって、できそうもないじゃないの。」

誰かを責めているわけではなくて、「独語」しているのである。

あー!今はやめて、ほんとにちょっと、静かにしてもらえないかしら…

と思うことがある。

先日、坂本さんと担当患者が揉めているのが聞こえてきた。

「ねぇ、ちょっと!今日は浣腸するからね、今日で3日も出てないんだから。え?だめよ、明日は日曜日なんだから。いいから、言うこと聞いてよ、もうーー!!」

この患者さんは長年の付き合いのある80代のヨシコさん。

ウニャウニャ!!よくわからないけど、抵抗する声が聞こえてきた。

やってる、やってる…坂本さんが不穏を煽ってる気もするが。

同僚と目があって笑いが込み上げてきた。

しばらく経って、坂本さんが

「あー!大変!蹴っ飛ばされたり、つねられたりしてさーぁ。でも、浣腸しといたから。」

勝ったらしい。

「ありがとう、坂本さん。大変でしたね」

「そーよ、大変なのよ、もうー。忙しくって!!腰痛い!!」

そう言いながら、廊下を去っていった。愛すべき先輩ナース。

 

🌸このブログについて
私のブログでは、子育て卒業後の”自分らしい毎日”をテーマに、看護・家族・猫・ポタリングなど、日々の小さな挑戦と気づきを綴っています。

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