森人(もりじん)という約束|幼い日のひとこと
「僕、もりじんになるんだ! お母さんも入れてあげようか?」
幼稚園児の息子が、よくこう言っていた。
もりじん、とは、森人と書くらしい。

「もりじんってなあに?」
「僕たち、約束してるんだ。森に住むんだよ。森に家を作って住むの」
森に住む、と聞くと、私はトム・ソーヤの友達、ハックルベリーを思い出す。
木の上に小屋を建ててひとりで暮らす少年。手作りのハシゴを登ると、見晴らしのいい小屋がある。
——あぁ、いいなぁ、入ってみたいなぁ……
子どもの頃、いつもそう思っていた。
「いいね! お母さんも入れてくれるの? ありがとね」
「うん!」
息子はニコニコと笑って、森に住む計画を話してくれた。
家を作るだけでなく、釣りをしたり、食べ物を採ったりするための道具も作るんだと、はりきっていたっけ……。
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三階の窓から見える、小さな森|母が感じる日々の癒し
今、私は古い集合住宅の三階に暮らしている。
目の前は駐車場で、高い建物はなく、日が燦々と入るお気に入りの部屋。
見渡すと、大きく育った木々がたっぷりの日差しを浴びて、緑の葉を揺らしている。
私は、この窓からの景色を見るのが大好きだ。
季節ごとに花が咲くように設計されていて、お世話もお任せ。いつでも快適。
出窓から、飼い猫のごまさんが外をじっと見ている。
パトロールのつもりなのかな?
ごまさんと目線を合わせると、欅の巨木が天高く枝を伸ばし、雀が楽しそうにさえずっているのが見える。
この小さな森のような景色を眺めていると、
ああ、私もある意味“もりじん”なのかもしれないな、と思う。
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海と森に囲まれて暮らす息子|”もりじん”になった成長の今
そして、あの頃の小さかった息子の目を思い出す。
今も、あの“もりじん”の話を覚えているだろうか。
彼は今、海洋生物の研究をするため、海と山に囲まれた小さな街で暮らしている。
実験が終わった魚をさばいて食べたり、海釣りに出かけたりしているらしい。
先日、大学寮を訪ねた。
部屋は見事に散らかっていたけれど、窓の外は大きな木に囲まれていて——
ある意味、彼も“もりじん”生活満喫中といったところ。
幼い頃に夢見た”森人”は、いつしか魚や自然の生き物を愛する”守り人”の姿にも重なっていた。
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場所は違えど、“もりじん”となった私たち親子なのでした。
あなたにも、忘れられない親子のひとことはありますか?小さな会話が、大きな思い出として心に残っていくのかもしれませんね。
今日も読んでくださって、本当にありがとうございます💌感想、あなたの「思い出のひとこと」などありましたら、ぜひコメントで教えていただけると励みになります。
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